334人が本棚に入れています
本棚に追加
少なくとも神崎に高校時代の佐久間の記憶はない。なんとなく騒がしい奴だったというだけで、あまり良い印象もない。ハルカとも一方的に想いを寄せていただけで接点はなかった。それは彼らにとっても同じで、二人のあいだで神崎の話題が上がることはないはずだ。神崎と佐久間が親しい間柄でないことくらい、すぐに考えられることだ。それでも「同じクラスだった」という僅かな希望を託してここへ来た。ハルカのネットワークの狭さと佐久間と連絡がつかないことへの焦りが窺える。気の毒だとは思うが、佐久間との関係に手を貸してやる気など更々なかった。
――が、これはチャンスかもしれない。おそらく佐久間はハルカと距離を置きたがっている。どんなに会えない理由があったとしても、本当に恋人を愛しているなら、どうにかしてでも連絡するものだ。このまま放って置いても彼らは駄目になるだろうが、ここで少しでも手助けしておけば、のちにつけ込みやすくなるだろう。
腕組み足組みをして気怠そうにしていた神崎だったが、一変して人当たりのいい笑顔を作ってみせた。
「もし佐久間が体調を崩していたり、事故にでも遭っていたらと考えると心配だよね」
最初のコメントを投稿しよう!