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神崎の問いかけに、ようやく動いて神崎の手を握った。握り返されたと思ったら離れて、右往左往しながら秀一の頬を撫でる。
「無事なのか」
「ああ。庇ってくれたんだってな」
「怪我は」
「切り傷だけだ。……お前は、」
ガラッ、と大きな音で扉が開いた。反射的に秀一は神崎から離れた。病室に現れたのは志摩である。片手にスーツのジャケットを抱えていて、冬だというのに額から汗を流していた。
「志摩先生!? どうしてここに」
神崎と志摩の関係を知らない秀一は志摩が来たことに驚いた。志摩はすぐに答えず、真っ先に神崎に近寄った。そして足の上に手を置く。
「正臣、俺だ。勇作だ」
「勇作さん、」
「学会の帰りで、電車に乗ってたらお前んとこの総合病院の救急車が見えて。直後にここの口腔外科の清水先生が電話で知らせてくれたよ。あの人も同じ学会に行ってて、途中まで一緒だったんだ。俺とお前のことを話してあるから連絡くれたんだと思う。……怪我は」
「骨折と打撲です。それから目」
「意識がしっかりしてるようでよかったよ」
そして志摩は神崎の包帯に触れ、悔しそうに歯を食いしばりながら離れた。一部始終をぽかんとして見ていた秀一に向き直り、「ちょっといいか」と誘った。
志摩のあとに付いて病室を出ようとしたら、力強く服を引っ張られた。驚いて振り返ると神崎が掴んだらしかった。本人は無表情を保っているが、取り残されることに不安があるのがひしひしと伝わる。その光景に一番驚いているのは志摩だった。秀一はゆっくり服から神崎の手を外し、「すぐ戻る」と言い添えた。
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