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志摩と別れて、ひとり神崎の病室に戻った。神崎は先ほどから動いていないようで、ベッドの上で上半身を起こしていた。秀一が近付くと、足音に気付いて神崎が問う。
「……勇作さんは帰ったのか」
「ああ、また来るって。退院してからも時々様子を見に家に行くって言ってたぜ」
ベッドの隣にある丸椅子に腰かけた。気配は感じているようだが、神崎は怖さがあるのか動こうとしない。
気付けば午後十一時を過ぎている。雨はまだ少し降っているのか、窓にパタパタと水滴が落ちる音がした。数時間前まで、まさかこうなるなんて思いもしなかった。突然、光を失って神崎は何を思うのだろう。
「痛いところは?」
「体中が痛むが我慢できないほどじゃない」
「何かしないといけないことがあるんなら、しといてやる。とりあえず当分、医院は休診ってことにするか?」
「それなら、明日の朝、八時に医院に行ってスタッフに事情を説明してくれないか。……申し訳ないと伝えてくれ。あと、院長室にA4サイズの黒のファイルがあるんだ。それをここに持って来てくれ」
「でも……」
見えないのに、という言葉を飲み込んだ。
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