10

9/11
325人が本棚に入れています
本棚に追加
/165ページ
 ―――  志摩と別れて、ひとり神崎の病室に戻った。神崎は先ほどから動いていないようで、ベッドの上で上半身を起こしていた。秀一が近付くと、足音に気付いて神崎が問う。 「……勇作さんは帰ったのか」 「ああ、また来るって。退院してからも時々様子を見に家に行くって言ってたぜ」  ベッドの隣にある丸椅子に腰かけた。気配は感じているようだが、神崎は怖さがあるのか動こうとしない。  気付けば午後十一時を過ぎている。雨はまだ少し降っているのか、窓にパタパタと水滴が落ちる音がした。数時間前まで、まさかこうなるなんて思いもしなかった。突然、光を失って神崎は何を思うのだろう。 「痛いところは?」 「体中が痛むが我慢できないほどじゃない」 「何かしないといけないことがあるんなら、しといてやる。とりあえず当分、医院は休診ってことにするか?」 「それなら、明日の朝、八時に医院に行ってスタッフに事情を説明してくれないか。……申し訳ないと伝えてくれ。あと、院長室にA4サイズの黒のファイルがあるんだ。それをここに持って来てくれ」 「でも……」  見えないのに、という言葉を飲み込んだ。
/165ページ

最初のコメントを投稿しよう!