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一度見失ったが、大通りに出て先ほどのフランチャイズカフェまで戻った時、うなだれて足を引きずりながら歩いているハルカを見つけた。
「栄田!」
呼び掛けると、ハルカはまた走り出す。意外に足が速いらしく、中々捉えることができない。やがてハルカが駆け込んだのは、先日ピアノを演奏したホテルだった。フロントを通り過ぎて真っ先に非常階段へ向かった。嫌な予感がして必死で追い掛ける。
「栄田! 待て! どこに行くんだ!」
「来ないでくれ!」
ようやく追いついて肩を掴んだと思っても、思いきり突き飛ばされる。足場の悪い階段では踏ん張りがきかずに手を離してしまった。ハルカは階段を駆け上がり、最上階へ向かう。この時期はビアガーデンを催しているので施錠が甘いらしい。あっさり屋上への侵入を許されたハルカは、フェンスまで駆け寄った。よじ登ろうとするのを羽交い絞めにして引き止める。
「馬鹿なことはやめろ! 死ぬぞ!」
「死にたいんだよ!」
「あんな奴のために死ぬな!」
「僕には彼しかいないんだ! 彼しかいなかったんだよ!!」
賑わっているビアガーデンの中で、ハルカは泣き叫んだ。大勢の視線がふたりに刺さる。
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