334人が本棚に入れています
本棚に追加
「……嬉しかったんだよ……好きだって言ってくれて……。声を掛けてくれて、覚えてくれてて、嬉しかった……。今まで誰とも恋人関係になったことがなかったから、彼が僕にとって全部初めてだった。……なのに……」
「お前を愛してくれる奴は他にもいる」
俺だって、と続けようとしたところを、手を振り払われた。
「僕には何もない。友達も恋人も」
「違う、何もないなんてことはない」
「もう駄目だ、信じられないよ、……生きてたって仕方がない」
誰かが告げ口をしたのか、警備員がふたりに駆け寄ってきた。
「栄田、とにかく……」
ハルカは宥める神崎を振り切って、フェンスを乗り越えた。
「やめろ! 戻れ!」
「きみ! そっちは駄目だ!」
「神崎くん、ありがとう。さようなら」
そしてハルカは頬に涙の筋を何本も残したまま、暗闇の底へ姿を消した。
最初のコメントを投稿しよう!