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「聴きに来てくれてありがとう、神崎くん」 「いや、俺もきみがここでピアノの仕事をしていると聞いて、来たくてたまらなかったんだ。こちらこそ素晴らしい演奏をありがとう」  このあと、ふたりで食事にでも。と、続けるより先に、彼が言った。 「着いたみたい」 「え?」 「実は今日、もうひとり誘ってて。仕事が忙しくて来れないって言ってたんだけど、今、来てくれた」  カツカツとやかましいローファーの音を響かせながらやってきたその男は、彼の隣に立った。外は雨が降っているのだろうか。雫の滴る濃紺のスーツを纏った、生意気そうな眼をした男だ。神崎はその男を見るなり眉をひそめた。 「よかったら、このあと三人で食事でもしない?」 「三人、で?」  スーツの男も「聞いていないぞ」というような、抗議する目で彼を睨んだ。 「神崎くんも知ってるでしょ? 佐久間くんのこと。高三の時、同じクラスだったよね? 実は僕……、」    ――待て、それ以上言うな。やめろ、やめてくれ。 「佐久間くんと付き合ってるんだ」
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