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 ***  熱湯を被って火傷を負った幼児が診察に現れた。初診では軽く消毒をして包帯を巻いただけだと母親は言ったが、包帯をといてみると、誰が見ても消毒だけでは治らない重傷だと判断できる。総合病院では日によって担当医が代わるので、治療の良し悪しは運次第だ。この幼児も初診でかかった担当医が悪かったのは不運だが、再診で自分にかかれたことは幸運だったな、と神崎は心の中で驕った。 「お母さん、これはきちんと治療をしないと痕になりますよ。三度の重傷です。しかも広範囲だ」  不安を煽るわけではないが、のんびり構えた母親に危機感を持たせるために、あえて深刻げに言った。実際、治療を怠ると一生の傷になることはあきらかだ。微笑していた母親はすぐに眉間を寄せて心配そうにする。 「き、綺麗にはならないでしょうか……」 「きちんと治療すれば綺麗になります。間違った治療をすればケロイドになってしまいます。火傷に限らずですが、消毒はしないほうがいい。湿潤療法といって、常に湿り気をもたせた状態で気長に様子を見ます」 「お薬は」 「特にありません」  神崎は保湿クリームをヘラで患部に塗り、ガーゼを宛てて包帯を巻いた。 「一ヵ月はお風呂は控えて下さい。どうしても入る時はビニール袋などを被せて水につけないように。包帯は病院で替えるので家では巻き直さないで。乾燥させるのが駄目ですからね。三日後にまた来て下さい」 「ありがとうございました」  母娘が診察室を去って足音が遠のいた頃、近くを通りかかった同じく形成外科の勤務医である吉田が神崎に声を掛けた。
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