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俺は、駅前からタクシーに乗って、先輩の家に実験の機材を受け取りに行くところだった。それなのに、ここはどこだ。何台かの車が停まり、白線が引かれているところを見ると駐車場なのだろうが、店舗らしき建物もなければ、コインパーキングや月極駐車場であることを示す看板もない。いや、それどころか、視界の及ぶ限り、遥か彼方まで白線が引かれている。この駐車場は、どこまで続いているんだ。そう思って、すぐそばにあった空きスペースをよく見ると、「714285」と書かれている。
すると、さっきのセダンが左折を繰り返し、こちらに戻ってきた。駐車場で出すようなスピードじゃない。俺が何をしたっていうんだ。思い出そうにも、頭にもやがかかったようで、状況が分からない。
とにかく避けなければ。
真っ白なセダンの運転席では、生気のない青白い顔をした男が、首をがくがくと揺らしながら、にらみを利かせてくる。俺は、セダンを十分に引きつけたところで、すぐそばにあったベンツのボンネットに飛び乗った。俺を轢きそびれたセダンは、苛立ちを蛇行運転に込め、そのまま走り去っていった。
ベンツから飛び降り、ボンネットの様子を確かめる。ベンツなら丈夫だからへこんだりしないだろう、と思ったのだが、そういうものでもないらしい。俺の靴の跡を中心にして、しっかりと窪地が生まれている。溜め息をついて周囲を見回す。
「まあ、へこむだろうな」
少し離れたところに停められた真っ白なバンの陰から、しわがれた声が聞こえてきた。灰色の髪とひげは伸び放題で、毛の隙間から鼻と細い目が覗いている。それと、口らしき場所からは一本の草が飛び出している。
「ボンネットも、お前さんも、な」
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