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金属をこすり合わせたような、耳障りで不愉快な笑い声だ。俺は大股に歩み寄り、男の汚れた胸ぐらを掴む。すると、男の体がひょいと持ち上がった。力を入れ過ぎたかと思ったが、男の体を見て、驚いて手を離した。
「急に離すんじゃない、危ないじゃないか」
両手を器用に使って着地した男は、言葉とは裏腹にふざけた調子だが、俺は平静ではいられない。男には下半身がなかった。
男は地面に落ちた草を拾い、口にくわえ直す。
「これを吸ってないと、痛みで気絶しちまう。気絶したら、今度こそ、奴らの餌だ」
「ここは何なんだ。奴らって……餌って何のことだよ」
「質問は一つづつ」草を揺らしながら灰色の毛が蠢く。この男が既に怪物めいている。「慌てても答えが変わったりはしないさ」
「ここは駐車場なのか」
「まあ、駐車場かと言われれば、そうだとも言えるし、そうでないとも言える」男は草を思い切り吸い、激しく咳き込む。「そうさな、わしら人間になぞらえるなら、カフェやフードコートみたいなもんだな」
「どういう意味だよ」
「店に入って、ただ座ってるってことはないだろう、って話さ。飲み物を飲み、食べ物を食べる。奴らだって同じさ」
「奴らって、さっきの車に乗ってた奴か」
「いや。あれは餌だ」
「誰の」
「車の、さ」
俺の言葉は止まった。この男、頭の中まで毛だらけに違いない。
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