第五章:覚悟と現実を

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 リール達の安否、自身の初陣、人の命を奪ってでも生き残ること、自分が殺されるかもしれないこと。さらには周囲の足を引っ張っていることなど数多くの不安に、相田の心と頭が悲鳴を上げている。 「隊長、やはり誘拐された村人達は奴らの村へ?」  デニスの隣に立つシリアの声で、再び相田は我に返る。  今度は先程より短かったのか誰も気づいてはいないようだった。相田はもっと集中しようと鼻の下を左右に擦って誤魔化した。 「いや、それはまだ判断できない。ポーンの帰りを待とう」 「………噂をすれば、か。隊長、ポーンが戻って来やしたぜ」  ザイアスの後ろから気配を消したポーンが近付き、彼は無言でザイアスの後ろから地図の一点を矢の先端で示した。  ポーンが指した地図には、小さく黒く塗りつぶした城のような絵が描かれている。 「成程、村人はここに捕らわれているのか」  デニスの言葉にポーンは1度だけ頷く。 「そこは古竜の城じゃな」嫌そうにテヌールが呟く。  位置的にはアリアスの村の南の森、相田が部屋ごと転移した位置よりもさらに南にある街道から少し森へと入った場所にあたる。  相田も自分の部屋よりも南には行ったことがなかった。 「一体どんな所なんですか? 名前からして竜が住んでいたとか、ですか?」 「お、よく知っていたな」  よりによってザイアスに褒められる。 「まぁ、数百年も昔の話だ」デニスが呟く。 「そっかあんたは知らないんだっけか」  それなら仕方ないと、シリアは城の由来を話し始めた。 「この国の人間なら誰もが知っている、昔々のお伽話さ。2匹の竜がこの国を滅ぼそうとした物語」  彼女が言うには数百年前、この土地に住む者達は邪悪な2匹の双子竜に滅ぼされかけていたが、その竜を1人の英雄が倒したという物語。小さい頃に親に読んでもらう本として必ず挙げられるほどの名作で、同時にこのウィンフォス王国建国の話でもあった。 「その2匹の竜が住んでいた、と」 「まぁ、どこまでが本当か分からないけどね」  随分昔の物語だからとシリアは鼻で笑い、適当に締めくくる。
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