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「しかし、どうしますか隊長」
話を切り替えるように、シリアが切り出した。
「村の現状も敵の本拠地も分かりました。一応、我々達の任務は果たしていると言えますが」
「撤収か」感情のないサージンの一撃。
その言葉に相田の肩が強張る。
部隊として既に任務を果たしている以上、ここで撤収命令が出ることは何らおかしいことではない。だが、デニスが撤収を命じれば、間違いなくリール達の命はこの世界から消えてなくなる。
相田は自分が無力であることをこれでもかと思い知る。謎の力も使えないまま、1ヶ月程度で培った付け焼刃的な訓練ですら生かすこともなく、また王国騎士団の本隊も間に合わない。
リール達の命を守るための条件として自由を奪われ、殺し合いの中に放り込まれた先に待つものが、何もかも失うという最も可能性の高い現実。選ぶ権利すらない相田はまるでチェスの駒であった。見えざる指で頭を摘ままれ、人生の岐路につま先だけで立たされていた。
だがそれでも相田は隊長であるデニスの決断を待つしかなかった。それが今この場でできる唯一で最善の一手であった。
「我々はこれより………撤収する」
決断が下る。
相田は木々の隙間から僅かに見える空に向かって目を閉じた。
しかし、デニスは地図に指を向けながら『だが』と続ける。
「撤収前に一度、敵の本拠地に探りを入れる」
続いた言葉に相田はすぐにデニスの顔を見た。
シリア達は地図に視線を固めたまま動かない。
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