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第六章:初陣
「あれは何だ?」
僅かではあるが、月の光から身を隠すようにデニス達は大木の陰に隠れた。
馬を村に置いていき、南の街道から森の中に入り、小走りすること1時間。サージンとポーンが飛び移る木の上から先導し、その後にデニス、左右を警戒するようにザイアスとシリア、中央に相田、後方にテヌールの順で暗闇の木々を抜けていった。
未だ蛮族との接触はない。だが目の前には広い円形の空間が広がっており、デニスの合図で全員が足を止める。
「………ふぅ」大きく息を吐く。
僅か1ヶ月の訓練とはいえ、相田は軽い息切れをする程度でデニス達についていけることができた。だ呼吸を激しくしているのは相田だけで、テヌールですら息を切らしていない。
今の内に呼吸を整えようと相田は木に背中を預け、汗ばみ始めた胸元を軽く扇いだ。
デニスが木を陰にしながら先を覗く。
森の中で不自然に開いた円形の空間の中央には謎の黒い石壁がそびえている。
―――そして蛮族達。
「………ゴブリンが6。いずれも魔法使いだ」
真上からサージンが小さく呟く。彼は木の上から石壁を囲むように松明の火を焚き、汚いローブをまとった蛮族達の位置を全て把握した。
「石壁を中心に何やら儀式を行っているように見える」
「ほほう、儀式とな」
後方にいたテヌールがいつの間にかデニスの横につき、興味深そうにその様子を窺う。
「何だか分かるか、テヌール」
デニスの問いに、テヌールはカールした髭を何度か伸ばしながら唸り始める。
「雰囲気からして、何かを召還しようとしているね」
「何かって何だい?」
シリアの眉をひそめた意見に、テヌールは眉を吊り上げて肩をすくめた。
「意外と………お伽話の双子竜だったりして」
呼吸を整えた相田が、冗談交じりで呟く。
だが、その冗談に全員が相田を見た。
「す………すいません。冗談です」軽く頭を下げる羽目になった。
だが冗談と思っていたのは相田だけだった。
「テヌール、実際には可能なのか?」
デニスが単刀直入に尋ねる。
「さぁね、誰もやったことがないから分からない。ただ、できないとは言い切れない、としか言うしかない」
その言葉に全員の顔色が険しくなる。
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