第六章:初陣

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「思ったよりデカイな」  ザイアスが拳でノックをするように石壁を叩いている。  相田も石壁を見上げた。    石壁は高さ2m横1mほどで、まるで幅のない部屋の壁を見上げている状態に近い。厚みはそれほどなく、壁の表面は漆のように黒く、表面はほぼ平らに整っているが手触りは埃っぽく、風化気味であった。  自然にできる物ではない、明らかな人工物でこの場所には不釣り合いで不自然なものだった。 「相田君の予想は当たっていたようだね」  ゴブリンの死骸を調べ終えたテヌールが石壁の一部を杖で叩く。  相田の膝ぐらいの高さに何かが刻まれていた。今使われている文字ではない。 「………随分と古い王国文字だね。『全ての命を飲み込みし黒き双子の竜、若き英雄の黒き剣に飲まれる。願わくば、永遠の眠りから覚めぬ事を』か。やはりこれは兄弟竜の墓標のようだよ。凄い発見だね」 「冗談じゃないぜ!」  ザイアスが足下の土を蹴り、黒壁に浴びせる。 「あいつら、そんな奴らを蘇らせるつもりだったのかよ!」 「恐らくこの森特有のクレーテル濃度を用いて、術の威力を上げようとしたんだろうね。さらに、ほれ。地面に引かれた白く細い線だが、魔力増幅の魔法陣の跡もある」  だが、それでも術は難しかったようだと、テヌールは杖で白線を断ちながら結論づけた。 「さすがに数百年前の死者の精神を拾うには無理があったのだろう。それほど心配する必要はないよ」  テヌールの講義が終わるのを待って、デニスは全員に声をかける。 「続きは帰ってからだ。このまま古城を目指すぞ」 「隊長! ポーンから連絡です!」シリアが叫んだ。  暗い森の中から何度か不自然な光が放たれる。矢じりを月明かりで反射させたポーンからの合図だった。  相田は目を細めて光のタイミングと光った回数を数える。  だが相田が暗号の答えを出す前に、他の面々が石壁を背にしながら森を睨んだ。  瞬間、耳を裂く音が一筋。 「相田!」  シリアが相田の首元まで迫っていた矢を小太刀で砕く。  矢の木片が相田の体や顔に小さく当たった。 「しっかりしな! 狙われてるよ!」「は、はい! すみません!」  事の重大性にようやく気づいた相田は、石壁を背にして地面に座り、半分だけ顔を出す。 「来るぞ! ザイアス!」「応さっ!」  デニスの号令に、待っていたとザイアスは石壁よりも前に立ち、背負っていた自分と同じ幅の大盾を地面に突き刺した。同時に大盾の裏に仕込まれている大剣もその横に突き立て、さらに盾としての面積を増やす。
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