458人が本棚に入れています
本棚に追加
「さぁさ相田君。我々はこっちに」
テヌールは相田の服を引き、ザイアスの盾の影に身を潜めた。
瞬間、月の光を遮る無数の直線が石壁に向かって飛び込んで来た。風を切り裂く音と同時に矢が石壁や大盾に当たり、次々と地面に刺さっていく。高い音と低い音を繰り返しながら、まるで車のボンネットやアスファルトの地面に雹が当たるような音を立てている。
相田は思わず頭を抱えながら盾の中に縮こまる。
「大丈夫大丈夫。これくらいじゃぁ、誰も死なないよ」
テヌールは何かを呟きながらサッカーボールほどの火の玉を1つ、また1つと生み出して宙に浮かべている。
壁に入らなかったシリアとデニスは、飛びかかる矢を次々と切り落としていた。シリアは動きやすい2本の小太刀を逆手に持ち、踊るように矢を切り落とす。デニスは左腕に巻いた白銀の盾で矢を弾きつつ、右手のロングソードの1振りで複数の矢を一気に打ち落としていた。
「ポーン! サージン!」デニスが叫ぶ。
直後、相田の頭上で何本かの光が直進し通り過ぎていく。石壁や大盾に当たる矢に逆走して森の中に消えた光の筋は、やがて断末魔の声に変わった。
次々と相田達の上を何本もの巨大な矢と鋭いナイフが森の奥へと飛んでいく。2人はは一撃離脱を繰り返し、場所を特定されないように木々の上を移動しながら攻撃を続けていた。
放たれた矢やナイフは次々と森の奥にいた蛮族達の命を奪い、草が擦れ、地面に落ちる音が彼らの戦果として聞こえてくる。
それに合わせて、相田達を襲う弓矢の総数が減っていた。
「テヌール! 準備はいいか!?」
次にとデニスが魔法使いの名を呼ぶ。
「いつでもいけますぞぉ」
テヌールの周囲には十数個の火球が提灯の亡霊のように浮かんでいた。
矢の音が一斉に無くなる。
相田がそのことに気づく前に、ザイアスは盾を持ち上げ、大剣と共に前に構えていた。
最初のコメントを投稿しよう!