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第一章 出会い
目が覚めるとそこには美しいひとがいた。
彼女は目を見開いたまま、微動だにしなかった。
乾いた肌、乾いた髪、唇も乾いていた。
凪子、ボクはこの人をそう呼ぶことにした。
凪子は決して微笑むことも、苛つくことも、悲しむこともなかった。
その鉄面皮の下に、どんな感情をひた隠しにしているのだろうかと、掻きむしりたい衝動にかられそうになることもあった。
凪子にときどき服を買って来てやった。
そしてもちろん着せてやった。
写真を撮っても良かったのだけれど、絵を描いてやった。
そうすることで、何時間も凪子と向き合って過ごすことができた。
言葉を交わさないボクたちではあったけれど、心は通じあっていた。
どこに触れようとも、凪子は決して拒まず、眉をひそめることさえなかった。
だからボクは凪子にも触らせてやった。
凪子は実に手のかからないひとだった。
食事どころか水さえ飲まず、それでもほんのりとピンク色の頬をして、唇はしっかりと色付けされていた。
その虚ろにも見える瞳には、いったいなにを映しているのだろう。
深くは考えず、美しいものとして描いてやった。
凪子ほどにボクを理解してくれたひとはいなかった。
ただ寄り添ってくれる、それだけでよかった。
陽射しの強い日も、砂埃巻き上がる日も、不条理な想いをしたり、思いがけず得をした日だって、凪子はボクのすべてを共有し、分かち合ってくれた。
凪子の顎は少し上を向いていた。
まるでお月様を懐かしむかぐや姫と思われるように、空を見つめていた。
いや、だめだ、凪子はお月様には返さないよ。ずっとここで、こうして、ボクと一緒にいるんだ。
ねぇ、凪子、そうするのがボクたち二人にとって、なによりも誰よりも幸せだろう。そうだろう。
分かっているよ。
凪子は決して言葉を返してくれない。
いいんだよ。ボクは凪子の気持ちを良く分かっているからね。
いついつまでも、こうして一緒にいようね、凪子。
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