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第三章 別離
時子は次の日にケロリとしてやって来るんじゃないかと思って、凪子を隠しておいたが、肩透かしをくらった。
ごめんよ、凪子。こんな薄暗い押し入れの中に押し込んだりして。
三日過ぎて凪子を表に出してやったとき、時子がやって来た。
不意打ちだ。
しかも、花子叔母さんではなく、太郎叔父さんを連れて来た。
「お前、俺の娘を殴ったそうだな!」
叔父さんはえらい形相で、ボクを杖で殴りつけた。
何度も何度も、硬いゴツゴツした杖で殴りつけ、丈夫な左足で踏みつけた。
ボクは額から流血し、床の上でのた打ち回った。
叔父さんの向こう側で時子のヤツはほくそ笑んでいやがった。
凪子はボクの方を向くことはなく、いつもと同じように、空を仰いでいた。
ボクは凪子を見つめながらも、気が遠のいていった。
そして太郎叔父さんは杖を凪子に投げつけた。
時子は杖を取りに行く振りをして、凪子を軽々と担ぎ上げ、窓の向こうの階下へと投げ飛ばしてしまった。
「うああああああッ。」
断末魔の雄叫び。
こんなものが、まだボクに出せたのだ。
無残、芝生の上とは言え、凪子の四肢はばらばらに崩折れてしまった。
ボクは泣きわめいた。
涙と、鼻水と、涎とを撒き散らして、まるで飴をねだる幼児のように、床の上に仰向けになって四肢を大きく振って泣き喚いた。
太郎叔父さんと時子はそんなボクの姿を見て、大いに呆れて出て行ってしまった。
ボクは庭に駆け出し、凪子の欠片をかき集め、なんとか組み立てようとした。
あれほど完璧で美しかった凪子の身体は、二度と元の姿には戻らなかった。
何度も何度も、位置を変えたり、部品を足したりしてみたのだけれど、もうなんともならなかった。
完璧な姿にならないならば、いっそのことこの世から消えてしまった方がいい。
凪子はそう望んでいたはずだ。
そろそろお月様へと戻りたかったのかもしれない。
だから燃やしてやったんだ。
煙になって、月へ昇って行くがいいさ。
でも安心おしよ、凪子。
ボクも一緒に行くからね、ボクの美しいひと。
ボクたちは永遠に一緒だよ、凪子。
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