0人が本棚に入れています
本棚に追加
弥生には、同じ二年生で、同じ町出身の二人の友達がいる。
文芸部に所属する瀬川望美。
そして、栗田蒼太郎。
二人とは、小学校の時から一緒だった。
三十人近く、同じ町に住む仲間がいたが、その中で西花高校に進んだのは自分達だけだった。
弥生が二人と特別に親しくなったのは、一年生のとき。夏休みが明けてすぐのことだったと思う。
蒼太郎に誘われて、彼の所属する文芸部に入部したのがきっかけだった。
蒼太郎。爽やかで落ち着きのある、文芸部というよりはサッカー部と言ったほうが似合う、スポーツマンな雰囲気の男の子。
望美。それまで特別親しいわけでは無かったが、文芸部を通じて、彼女の性格を知っていった。
ポニーテールと切れ長の瞳がクールだけど、その中身は、笑った向日葵のように明るい女の子。
そこまで考えたところで、ふと作業の手を止めて時計の針を見る。
もう六時か。外が明るいから気付かなかった。
時計の針と水槽のような空とを交互に見比べながら、夏も近いな、とひとりつぶやく。
夏の空気の匂いを思い浮かべるだけで胸が高鳴った。
「……あーあ、青春したいなー」
--夏と言えば青春だよね。
無意識のうちに単純な連想をしている自分に気づいて、ひとり可笑しかった。
今日の弥生は図書室でだいたい一時間、ずっと一人で目の前の作品と向かい合っていた。弥生の書いた小説がテーブルの上にある。
書いているのは、いわゆる青春恋愛小説。
『箱庭ランチボックス』という作品だ。
最初のコメントを投稿しよう!