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ストーリーは、ある日、昼休みに階段でお弁当を盛大にひっくり返してしまった女の子が、それを見ていたかっこいい男の子に手作りのお総菜を分けてもらうところから始まる。二人の恋模様を書いた物語だ。
この、今までに書いたどんな文章よりも長い、書きかけの箱庭ランチボックスは、小説であり、弥生の空想の産物だった。
トウゼン、弁当をひっくり返したら、男の子が不憫に思って分けてくれた、なんてエピソードは今までに一度も体験したことがない。
主人公の名前は弓村弥生。自分と同じ名前の高校生の女の子だった。
作中の弥生という女の子が恋をするのは、栗田蒼太郎という男の子。
ここは本物だ。弥生と同じ文芸部の仲間、栗田蒼太郎の名前。
ただ、この箱庭ランチボックスには、とても重大な嘘が含まれている。
弥生はその嘘の表現が出てくる度に、頬を緩ませながら、箱庭ランチボックスを書き続けた。
自分でも可笑しくなっていたが、それでも不思議と止まらなかった。
もちろん、誰にも見せるわけにはいかない。
だが、期待感からだろうか。こうやって図書室でコソコソ書いていると、望美が気づいてくれるかもしれないと思って、ちょっと期待してしまう。だけど、こんな恥ずかしいものを実際に見られるのは勘弁だ。
弥生が図書室で秘密の小説を書いているのは、そんなあまのじゃく思考からである。
自分は中学の時から、ほんとうに何も変わってないな。弥生はため息をつく。
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