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中学の時、弥生は俗に言う「イタい子」だった。当時は、一人称を「ぼく」にして喋っていた。それに、学校で納得できないことがあったら、その度に親や先生にどうして、どうしてですか、と相手が折れるまでしつこく問いつめていた。
ある日突然リストカットの傷をつけたまま登校して、周りを困らせたこともある。
それでもクラスメイトや先生達からは、穏やかでおとなしい子のイメージで通っていたのだが。
だから、今現在手元にある、A4の原稿用紙の束。この、自分と二人の友達の名前を書いたモノも、きっとそんなイタい行動の一部だ。ちょっとストーカーっぽいかもしれない。
たぶん、この自分と重ね合わせたものを作ってしまったのは、中学時代の気持ちを引きずっているから。
物語の中に現れる、同姓同名の分身を作ることで空想に浸る。もしくは、そうやって架空の人物を演じることで、自分の中にある本当の特別性を覆い隠しているのかもしれない。
一つだけ言えるのは、高校生になった今でも、自分は未だに「イタい子」のままだということ。
いま入っている文芸部は、望美と蒼太郎に誘われて入った場所だ。
いつだったか、望美は自分のことを可愛いと言ってくれた。
嬉しかったけど、ちょっと複雑な気持ちだった。
弥生は赤ら顔の自分を気にしていた。スタイルも良くないと思っている。
望美と自分とは何もかもが反対のように思えた。
だから、この箱庭ランチボックスの中で、蒼太郎と自分の仲を取り持ってくれる、望美という超人的親友の存在を夢想していた。
実際には、望美にとっての自分は単なる友達の一人にしかすぎないというのに。
「弥生」
考えていると、自分の名前を呼ぶ声がした。
振り向くと、そこには望美が立っていた。
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