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「一週間くらいは腫れるし、違和感も有ると思うけど、大丈夫ですから。洗顔は普通にしてもらって構いませんよ。傷口に抗生剤を塗るのは忘れないで下さいね。」
美容外科医として、朝比奈誠二の腕は優秀だった。
更に、よくCMで宣伝をしている大手の美容整形外科に比べ、料金が破格的に安い。
朝比奈がその気になれば、経営するこのクリニックを大きくし、既存のクリニックに対抗するのは十二分に可能な事である。
しかし朝比奈は、他に人を雇い入れず、独りこの神戸で、ささやかで目立たない営業を続けている。
「最後の方、どうぞ」
単独で営業している為、朝比奈クリニックは完全な予約制であり、一日に三~四人程度の患者しか診ない。
その日、最後の予約は、去年から朝比奈の元で整形を始めた遠藤彩音だった。
彩音は岡山県でも北部にある美作市から高校を卒業した後、両親の反対を押し切り、憧れていた神戸で独り暮らしを始める。
しかし神戸とはいっても彩音の就職先は、街から遠く離れた工場で、普段は男性に混じり、ライン作業をただ黙々とこなすだけの毎日だった。
工場勤務は福利厚生が充実しているが、単純労働の繰り返しで彩音は直ぐに仕事に飽きてしまう。
四日働いたら休日が来る。
友達もいない神戸で、彩音は休日を持て余すようになって行った。
土曜の夜は一人、三宮に出掛けたりした。
出会い系サイトに登録して、男性との出会いを探してもみる。
しかし、彩音に素敵な出会いは訪れない。
何故なら、彩音は容姿が特別に悪いのである。
くっきりと出張った頬骨に、更に肉厚で脂ぎった皮膚が乗っている。
その肉厚な皮膚は、瞼にも重くのしかかり、腫れ浮腫んでいる様にさえ見える彩音の瞼は、彩音の醜さの象徴だった。
独り暮らしが一年を過ぎた盆休みの前日、彩音はある決心を実行に移す。
それは美容整形外科に行き、この重く腫れ浮腫んだ瞼を、綺麗な二重瞼に整形する事だった。
大きなクリニックに行くのは気が引けた。
大勢の患者が待つ待ち合いに行くことに気後れするのだ。
彩音は色々と調べた結果、朝比奈クリニックに辿り着く。そして、初めて切開法による瞼の整形手術を体験したのだ。
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