0人が本棚に入れています
本棚に追加
静かすぎる村
灰色のペンキを流したようなその光景は、こちらの気まで滅入ってしまいそうになるほど陰々たるものであった。
村の中央へと続く石畳みはいくつかがはがれ、道に穴という障害をつくっている。あれでは馬が足をとられて馬車も通れないであろうが、そもそもその馬さえ見当たらない。放置された斧。折れた柵。辺りに生える草花に力はなく、木の枝はうつむいていた。それにもかかわらず、建ち並ぶ家々は窓のガラスにひびがはいることも、屋根が抜け落ちることもなく、きちんとしたかたちを保っている。その違和感がまた不気味さを増幅させた。
人はまだ住んでいるはずだ。アピスは確信していた。道から少しそれたところにある井戸。茶色く錆びた手押しポンプの持ち手だけがわずかに光っている。村人はいる。だがなぜ息をひそめて生活をするのか。
わずかな変化も見逃さないように意識を研ぎ澄ませる。すると、アピスの問いかけに応えるかのように、一軒の家の窓にかけられた紫色のカーテンが揺れた。すかさずアピスは走りだす。かけた石畳みにつまずき、また雨に濡れることにはなるが、それでもかまわなかった。異質な村のモノトーンな景色に気をとられ忘れていたが、アピスの身体は冷えきっていたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!