序章

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   アピスがその村を訪れたのは偶然だった。  出稼ぎのために赴いた土地は初めての場所だったために、帰りの道中で迷ったあげく、雨に降られてしまった。慌ててやり過ごせるところを探し、たどり着いたのがこの小さな村だったのだ。  「はぁ…はぁ…」  馬小屋らしき建物の下に身をおいて、やっとアピスは息をついた。上半身は濡れ、大事に抱えていた荷物にまで水が滲みている。今回はいつもより稼ぎがよかった。それを持ってあとは帰るだけだったのに。ぐずぐずになった袖をしぼりながら、切れた呼吸の間に、アピスはため息を混ぜ込んだ。  しばらくして、アピスはふと違和感を覚えた。音がしない。人の気配がない。雨にかき消されているからではない。小屋の手前には民家があった。それなのに生活音がしない。身震いをする。水がつたって下半身にまでおりてきた。寒いと感じたのは冷たい雨のせいだろうか。  さきほどまで荒れていた呼吸も落ち着き、いつまでもここにいては冷えてしまうとアピスは家を探すことにした。暖をとれそうな家だ。  小屋の中から外の様子をうかがう。雨はいっそう激しさを増し、世界を霞ませる。それでも目をこらすと、そこに広がっていたのは枯れた木々のように生気を失った村の景色だった。
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