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エアコンの冷たい風を受け、ベッドの上を部屋着でゴロゴロして、体を揺すりながらスマホを持っている。 空いてる片方の手には空の缶ビールをいつまでも大事に握っている。
不摂生真っ只中を謳歌し自慢の顎髭をインスタに上げようと夜更かししている。
だらしなく救いようの無いこの男天原神流29歳は、眠れない夜を違う意味合いで過ごしていた。
……
……突然、照明が消えた。
停電だろうか、人間が闇に恐怖を感じるのは、生物としての正しさだろう。
直前に何か得体の知れないものが、身体の中を駆け巡ったが幽霊など信じていない神流は、気のせいだろうと思うしかなかった。
「仕方が無い、車で停電していないコンビニかファミレスでも探して出社の時間まで過ごすか」
神流は、スマホのライトを頼りにクローゼットを開けると、溜め息混じりに無造作に置いてあるスーツを脇に抱えた。
リビングで黒いセカンドバッグと鍵を持って、いつものように玄関のドアノブを握りガチャリと開ける。
「うおっ……」
…………声が漏れた。
神流の眼前に暗がりに拡がる。
森が現れた。
玄関を境に草木が、行く手を阻むように佇んでいた。
まるで、この家をくり貫いて森に捨て置いた感じだった。
ドッキリなんてレベルでは無かった。
俺の車も駐車場も見当たらない。
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