宵闇に浮かぶは王の城

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   ビャコウが元勇者の王が住む都を目指し旅を続け、もう六日が経った。  村とや町をつなぐ乗り合い馬車で同席になった者や、同じ宿に泊まった者たちからあれやこれやと話を聞き、分かったことが大きく三つある。  一つは、人間どもはかつてのように大きな一つの国にまとまっているのではなく、複数の国に別れていることだ。大なり小なりの国々は、仲良しこよしで同盟を結んだり、利権を争って敵対したりと忙しくやっているようだ。  これは恐らくだが、魔王という一つの強大な敵がいた時代は団結する必要があったが、平和になったことで足並みが乱れ、現在のように分裂したのではないだろうか。  元勇者が治めるファレナ王国は、国土こそさほど広くはないが、多くの人々の尊敬を集めているだけあって、他国に与える影響力は大きいのだとか。ちなみにファレナという名前は、元勇者の故郷の村から取ったらしい。  分かったのことの二つ目は、この五十年という時間の中で最も発展したのは「文化」だということ。  例えば、印刷技術が発達したことで、どこの村や町でも本を見かけるようになった。絵画も、どのような技法が使われているのか、自分の記憶の中にあるものに比べて遥かに緻密で写実的に描かれている。  対して、戦いの技術はそれほど変化していないようだ。もちろん、見たことのない形状の武器や知らない力を持った術に驚くことはあるが、目まぐるしく変化と発展が繰り返されたあの戦いの時代に比べたら馬と亀の歩みほど違う。  やはり平和な時代というのは、腹の足しにならないような趣味に没頭する暇を持て余した人間を大量に作るらしい。  
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