死霊術士は起きられない

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   棺桶から這い出ると、手を何度も握ったり閉じたり、その場で足踏みをしたりして、感覚を確かめる。体のどの部位も思った通りに動いてくれる。衰弱もしていないようだ。 「魂は無事に体に定着してくれたみたいだが……あー、頭痛ぇ……しかしなんだってんだ、さっきの音は」  ビャコウは音の正体を確かめようと、フラフラした足取りで洞窟の出口を目指す。  頭痛がする上、頭には靄がかかっているかのようだ。体はなんとか動いてくれるが、体調は最悪だ。  そして洞窟から外に一歩出てた瞬間、ビャコウの目が驚きで一気に見開かれた。 「なんだ、ここ……?」  そこには、一面の花畑が広がっていたのだ。 「あれ……ここ、本当に死霊山だよな……? オレ様の本拠地の」  ビャコウは必死に自身の記憶を辿る。確か、死霊山は、枯れた木々や墓石の合間を魂の火がうようよ徘徊する素敵な山だったはずだ。  なのに、なんということだろうか。死と恐怖が埋め尽くしていた闇の山は、緑と花に溢れたのどかな場所に生まれ変わってしまっているではないか。  初めに考えたのは、自分がこっそり他の場所へ移動させられた可能性だ。しかし、地面に描いた術式はそのままだったことから場所だけ移ったとは考え難い。  ならば、何者かがなんらかの術を使って死霊山の性質を変えてしまったのだろうか。しかし、そんな大規模な術の残滓は感じられない。  ということは-- 「まさか、時間が経って植物が育ってしまったというだけのことなのか? だが、1年や2年じゃこうなるまで変化しないぞ。一体、オレ様は何年寝ちまったんだ……?」  確か、予定では一ヶ月で復活ができるはずだった。単純に、無意識の内に復活を先延ばしにしてしまったということだろうか。  
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