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そんな流れに逆らうように、女性が一人、村の上(かみ)の方を目指して駆け上がってきた。
「おい、女」
坂を下ったビャコウはその女性を呼び止めた。女性は息を切らしながら、余裕のない表情をビャコウに向ける。
「なんだい、ここらじゃ見かけない顔だね。さっきの鐘を聞いていなかったのかい!」
女性は十代後半ぐらいだろうか。日に焼けた肌にはそばかすが見える。農作業でもしていたところなのか、手や服には土が付着している。
「聞いてはいたぞ。何が起きたのかわからんだけだ」
「魔物だよ! 魔物が出たのさ!」
女性は間髪入れずに答えた。
「あの鐘はね、異常を知らせるためのものなんだ。二年前にも一度、魔物がこの村に来た。その時は六人が食い殺されたのさ」
魔物か。ならばこの人間の慌てっぷりも納得だ。
しかし、今この女は食い殺されたと話していたが、それはおかしい。自分の配下は骨だけだったり霊体だったりで、胃袋がない魔物ばかりだった。幹部だった一つ目鬼のサイクロプスは菜食主義で、裏手に農園を作って野菜を育てていた。
「確かめたいことがある。魔物が出たのはどっちの方だ」
「あたしが今から行こうとしている方向だよ! 魔物が出た上手にはあたしの家があって、弟と妹がまだ逃げてきていないんだ!」
それだけ言うと女性は再び走り始める。ビャコウはその後を追う。
「なんでついてくるんだい!」
「確かめたいことがあると言っただろう」
「勝手にしろ!」
ビャコウの答えに、女性は苛立ったように言った。
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