死霊術士は起きられない

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  「まだ名乗っていなかったね。あたしはエラって言うんだ。その……もしよかったら、あんたの名前を」 「待て」  ビャコウは手で女性--エラを制する。その耳は近づいてくる不穏な足音を捉えていた。 「おい、女。それからガキ二人。悪いことは言わんから、その汚い小屋から早く離れろ」 「え……?」  ビャコウの言葉を理解したエラが、言われるがまま弟と妹の手を引いて納屋から離れた直後だった。  ドン、と大きな衝撃が響き、爆発したかのように納屋が一瞬で崩壊した。  砂埃が煙のように立ち上る。エラは、崩れた納屋の先に現れた巨大な影を見て息を呑んだ。そこにいたのは、長い首が二つに分かれた大トカゲだった。  黄土色の鱗はあちこちで隆起し、まるで岩を纏っているかのようだ。二つの頭の四つの目がギョロギョロと動き、獲物を探す。その大きな口を開ければ、人間どころか牛も丸呑みすることができるだろう。  少しでも遅れていたら、エラとその弟と妹は納屋の下敷きになっていただろう。そしてもっと遅れていたならば、小さな二つの命は納屋と一緒に潰されていただろう。 「地を這う双頭の竜、か! 下位種とは言え、地竜がこんなところをうろついているなど、聞いてないぞ。お前はどいつの管轄だ。誰の許可を得てオレ様の本拠地に……死霊山に足を踏み入れた!」  ビャコウが問うが、双頭の地竜は答えない。どころか、異常に発達した牙を向け、ビャコウを威圧する。 「あ、あんた、何してるんだい……早く逃げないと……!」  弟と妹を抱きしめながら、エラがビャコウに震えた声で言った。  
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