死霊術士は起きられない

16/22
前へ
/24ページ
次へ
   世間で最も普及している「魔術」が、自然が生み出す力を人が扱えるように変換して扱う術ならば、死霊術は生命の力を形にする術である。  自身の魂をすり減らすかのような厳しい修行と、死と向き合い続ける日々を経て、ネクロマンサーは成長する。  かくしてビャコウは「冥獄」を名乗る。  地竜は堅い盾にぶつかった衝撃で一つの頭を震わせる。しかしもう一つの頭が号令を出したのだろう。すぐさま体を反転させ、長い尻尾を鞭のようにしならせ、盾の側面から回り込むようにビャコウを狙う。  この攻撃に切り替えの速さに、さすがにビャコウも後退する。組んでいた腕をほどき、地竜を睨む。 「おのれ……! 一歩も動かず圧勝してやろうと考えていたオレ様の計画が台無しだ。悔いて詫びろ、『月下ノ軍狼』!」  白いもやが形を形成し、二匹の狼の姿に変わる。死霊で作られた狼は宙を駆けると、地竜の首の肉を岩のような鱗の上から噛み切った。  地竜が二つの口から悲痛の叫び声を上げる。しかし、すぐにそれは怒りの咆哮へと変わった。  重く響く地竜の咆哮。同時に、一帯は地震に襲われたように地面が揺れ始めた。  家屋が倒壊し、山の斜面から土砂が流れてくる。  これが地を操る地竜の力。下級ですら、一個体が軽々と災害を引き起こす。  ビャコウは立っていられなくなり、地に右手を着く。屈辱だ。格下の相手にこれほど手こずるとは、寝起きの体だからだろうか。  
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加