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ビャコウは地面付近に死霊のもやを広げ、低く広範囲に滞留させる。
左手の人差し指を下に向け、
「地に伏せろ」
瞬間、地竜はまるで上から見えない力に押し潰されたかのように地面に這いつくばった。
死霊を媒介にして他者の魂に直接命令を下す「操魂ノ技」だ。地竜の魂に命令し、地に伏せさせたのだ。
もっとも、この技は誰に対しても通用する訳ではなく、相手が下級の竜だったこととビャコウの技量があって初めて成せたことである。それだけ形を保つ魂に干渉することは難しいのだ。
地竜の唸りが止まったことで、局地的な地震も収まった。ビャコウは立ち上がると、首を捻って鳴らした。分析をするかのような冷たい目で、動かなくなった地竜を見る。
「寝起きとはいえ、この技はどうにか使えたか。ならば一つ、大技も試してみよう。なに、すぐに楽になるさ。貴様程度の魔物じゃ見ることも叶わない術だ。目をしっかり見開き、とくと御覧じろ」
白いもやが生まれ、集まり、一つの形に収束していく。
逞しい四足に、強靭な爪、鋭い牙、そしてその気品さすら感じさせる白の体躯。
白き虎--白虎である。
「さあ--」
ビャコウは右手の五指を折り曲げると、「あの日」に言い切れなかったセリフを放つ。
「黄泉への坂を転がり落ちろ! 死霊術『荒天白虎』!!」
地竜すら上回る巨大な体躯の白虎が、唸りを上げて動けない獲物へ襲いかかる。
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