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一つの爪で一つの首を落とし、もう一つの爪でもう一つの首を落とした。最後に牙を向き、体を食いちぎる。
黒の血潮がほとばしる。地竜は最後の声を上げることなく物言わぬ骸と化した。
全ては一瞬の出来事だった。役割を終えた白虎は大きく天に咆哮し、日の光に溶けるようにして形を失っていった。
* * *
「もう出てきても構わんぞ」
ビャコウが告げると、少し離れた茂みからエラが顔を出した。二人の兄弟はどこかへ避難させたのだろう。今は一人でいる。
「あんた、何者なんだい……? あの大きな魔物を簡単に殺しちまうなんて、ただの旅人じゃないね」
双頭の地竜の死骸から煙が上がっている。魔物は絶命すると、皮や爪といった頑丈な部位を残して、あとはチリになって消滅していく。それが、魔物が魔物たる所以。普通の生物との大きな違いだ。
「女、少し聞きたいことがある」
ビャコウはエラに近づくと、しゃがんで彼女の目線に合わせる。
「な、なんだいっ」
エラは体は強張らせる。彼女が恐怖するのも無理はない。今、目の前にいるのは地竜を上回る強さを持つ何かなのだから。
「オレ様が知る限り、ここに村はなかった。お前たちはいつからここに住み始めているのだ」
質問が予想だにしていなかったものだったためか、エラは数秒固まる。
「いつからって……この村ができたのはもう四十年以上前のことだよ。あたしのお母さんが小さい時に移住して、仲間と一緒にこの村を拓いたんだ」
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