死霊術士は起きられない

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   魔物が現れるとしたら、人間の住む村を狙う可能性が高い。故に村に魔除けの像を立てておけば、効率よく死霊山を守れるだろうと考えてのことだった。さすがに山全体を補うことは面倒だし、難しい。  用を終えたビャコウは歩き出す。かつての宿敵が統べる都へ。  たとえ五十年越しの勝利だとしても、勝ちは勝ちだという根拠のない確信を携えて。 「待って! 名前だけでも教えてよ! あたしが、あたしが聞きたいんだ!」  エラの必死な声を背中から聞き、ビャコウは肩越しに振り向き、答えた。 「ならば聞け、人間のエラよ。オレ様の名はビャコウ。最強のネクロマンサーにして、この山の真の主(あるじ)だ」 「ビャコウ……ありがとう、ビャコウ! きっとあなたは山の神様なんだね!」  遠ざかる黒衣の背が見えなくなるまで、エラは手を振り続けた。  この後、獣を統べる山の神様が現れ、魔物を退治したという話が村で語り伝えられるようになる。  ビャコウが残した像は守り神として扱われ、彼が伝えた通りに村の入り口に立ち、魔除けの役割を果たしている。  しかし、彼の思い通りにいかなかったことが一つだけある。  虎を模したつもりで彫った像が猫に間違われ、「ビャコウ猫」という名の猫の木彫りが村の民芸品になったそうな。  
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