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「玉袋、お札!」
俺の合図に合わせ、玉袋はポケットから面倒臭そうにクシャクシャのお札を取り出した。
それを受け取り、悪霊の額に貼り付ける。
「終わりだ。緊縛除霊……昇天!!」
その言葉に合わせ、悪霊の身体が黄金に輝きヒビが入り始めた。
『俺は、悪霊なんかじゃない! 俺は、茉莉花の彼氏だぞ!』
「追い込まれたせいでくだらない嘘を言いやがって! お前はもう……終わりだ!」
その時、俺の腕に伊瀬谷がしがみついた。
「あ、悪霊は何て言ってるんですか?」
「嘘に違いないと思うが、君の彼氏だと……」
俺が眉間に皺を寄せながらそう告げると、伊瀬谷は顔を覆って泣き崩れた。
「やっぱり……やっぱりそうだったんですね……」
なんだこの流れは……と思いながらもロープをギュッと握り、伊瀬谷の顔を覗き込む。
「やっぱりとは?」
「私の彼氏……雅治は三ヶ月前に交通事故で亡くなりました。彼と同棲していたマンションを出てこのアパートに住み始めてから怪奇現象が起こり始めたので、もしかしたらとは思ってたんです……」
伊瀬谷は嗚咽混じりに呟くが、一度緊縛除霊をしてしまったら解除することは出来ない。
この悪霊が雅治であったとしても黄泉の世界行きは決まっている。
面倒臭いことになったと思いながら悪霊の方に視線を向けると、既に悪霊の全身にヒビが入り始めていた。
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