第1章

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「ほう。」 部長は、意外そうな顔をしてニヤリと笑う。 「詳しく話してみなさい。」 はやる気持ちを抑えつつ、ふーと息を吐き、覚悟を決める。企画書や提案書といったものは、どんなに一生懸命考えたとしても、いいものでなければバッサリと切られるのも当たり前。 だから、この時はいつも緊張する。 『今回は、現在若者に人気急上昇中の吉野 和馬さんを起用しようと考えてます。吉野 和馬と言えば、爽やかで好青年なイメージですが、あえてここでは話題性に富むために、基本的にはカッコよく、暗いイメージでいきたいと思っています。コンセプトとしては、“蛍”。』 「…具体的に構成は?」 『申し訳ありませんが、詳細までは決まってません。…ですが、拘りたいのは照明です。』 「どんな感じで?」 『最初は照明なしで。そして黒い色紙に色水を垂らすように、光を増やしていきます。それが体の中央に集まり、光が今回の商品の形を成します。それを手に取り、飲むと、俳優の身体がだんだん明るさを取り戻す。最後は清涼感溢れる感じで、明るい照明をふんだんに使う感じです。』 「…光ね。“色水を垂らすように”だと、コンセプトと異なるんじゃないか?そこはどーする?」 『あ…。』 「まぁ、構成自体は悪くはないと思うよ。いつもみたいに手堅く固めてなくて新鮮さもある。どうして大胆にいこうと思った?」 『それは…。』 ちらりと後方にいる志貴を見遣る。 「志貴のアドバイスか。」 すると志貴が慌てて、 「でも、俺は起用する人材の変更と大胆にいってみたらと提案しただけで、構成自体には…。」 「わかってる、わかってる。これはこれで成宮の味も出てるし、一皮向けた感じがしたからね。成宮じゃなきゃ、構成できないものだろう。ただ、どういった心境の変化で、今でと違う感じにしようと思ったのか不思議に思っただけだよ。」 そして、僕と志貴はホッと息をつく。 「うーん。構成はいいんだけどね。最初は真っ暗っていうのがな…。斬新すぎて逆に視聴者が驚くんじゃないか?ここは、なんだか上にも言われそうだもんな…。」 ーどう変えればいいんだろうか…。最初は照明使う?でもそうすると、構成自体少し変更が必要になるし…。 「俺なら、俳優の目を使う。」 ー俳優の目。 「…最初に、俳優の目だけ赤く光らせる。」 ポン、と頭に手がのる。見上げると、伊吹先輩は、ニヤリと笑い、 「及第点、だろ?」 そう言って、部長を見る。 「だな。よし、それでいこう。」
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