第1章

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“メディアデザイン本部” と書かれた部屋に入ると、所謂キッズルームのようなカラフルなソファーやマットが敷かれた光景が広がっている。 何故、こんな仕様になっているかというと、職場の人がリラックスしながら、自由にアイディアを生み出せるようにという我が社のお偉いさんが決めたらしい。 朝から来た人は、僕が最初だったらしく、ソファーやマットには、徹夜した先輩達が力尽きて、転がっている。 屍だ、屍。 先輩達を足蹴にしないよう気をつけながら、お気に入りの丸っこい椅子に座る。 そして、先週から手掛けているCMの構成を考えるため、自分のパソコンをひらく。 そのCMは、某食品会社の新商品である、スポーツ飲料を広告するものだ。 今のところ、大体の構成が定まりつつあるが、1つ問題がある。 それは、出演者だ。 スポーツ飲料といえば、やはり爽やかで、好印象を持たれるような人を採用したい。 しかし、僕個人の感想としては、これから売れそうな爽やかな青年を採用し、このCMによってデビューするような人がいい。 そうすれば、今後も懇意にしてもらえるだろうし、出演を依頼しやすくなるだろう。 だが、そうそういないのが現実である。 僕より後輩はいないので、誰かに頼むなんてもってのほか、自分で探すしかないのである。 “話題沸騰中!”なんていう謳い文句で、掲載されていた青年にも会ってみたが、やはり爽やかさに欠けるものがある。 初々しくて、業界に染まっていないような青年が欲しいのだが、このご時世、ネットという便利なものが蔓延っている世の中では、皆現実を直視してしまっているのだろう。 そして昨日、こうも長く出演者を決められずにいるため、こないだ部長に諭されたばかりなのだ。 “爽やかさを重視するなら、新人にこだわるのではなく、世間から爽やかに見られる出演者を探すべきじゃないのか?” この言葉には、納得せざるを得なかった。 当たり前だが、磨けば光る原石のような新人は、なかなか現れない。 もし、現れているなら、他の雑誌やらテレビなどで取り上げられてもおかしくはない。 ならば、代わりに新人でなくとも爽やかさがある芸能人を起用するべきということだ。 つまり言ってみれば、CMは、世間を構成する視聴者が見るものであり、その視聴者に購買欲を沸かせることが重要なのだ。
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