大統領の悩み

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T国のポポロン大統領はシャワーを浴びながらずっと 悩んでいる。 朝食を食べる間もずっと悩んでいた。 眉間に皺を寄せて考え込む彼を見て、愛する妻は 「きっとR国との戦争について考えているんだわ」 と思った。 娘のシャロンはもうハイスクールに着く頃だ。 R国との戦争が勃発したのは2年半前。 一進一退の攻防を経て、戦線は膠着していた。 そろそろ和平の道を探さなければならない時期だが、 強硬派は「核ミサイルを撃つべき」と主張している。 R国が国境付近に部隊を集結させている……偵察衛星が 送って来た写真に大臣達は顔面蒼白となった。 2万人近い兵士達が今にも国境を越えて攻め込もうと しているのだ。一方T国防衛部隊は4千に届かない。 「自国民を守るには、核ミサイルしか方法が無いのかも  知れないな」 昨夜大統領はいつでもミサイルが発射出来るように、 T国との国境付近の基地にロック解除を命じた。 . 3時間後には核ミサイルがT国に向けて飛んで行く。 R国の歴史で自分が一番最初に「発射ボタン」を押す。 歴代最低の大統領として人々の記憶に残るだろうが、 その批判は甘んじて受ける覚悟は出来ている。 悩みはミサイルを撃つかどうかでは無いのだ。 ポポロン大統領はキュッとシャワーを止めると ドアを開けた。
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