SCENE3

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 ええっ、マジですか日置さん? やっぱりさっきの俺をうらやむ発言も、リョウコはジュンイチに一途に想われ続けていいなあ、ってことスか? 「ん? 草食と肉食ぐらい、違うなあって」  そういうの、さらっと言っちゃうのが純さんの怖さだ。たぶん、健司が自分に気があるとか、そんなのは一ミリどころか、一ミクロンも思わねえし、そうじゃないとしたって爆弾発言だって自覚がないんだろう。 「まあな、確かにな……」  健司は完璧不機嫌になって、そのまま楽屋を出て行った。  健司自身も認めたように、純さんと健司は草食と肉食ぐらい違う。言い得て妙だ。  そしたら、俺はなんだ? 俺こそライオンじゃねえのか? 一緒に育ったから仲よし、的に、べったべたに頼られて甘えられてるけども……。  って、待て。俺がライオンはまだしも、純さんがいたいけな草食動物、って考え方がまずおかしい。外見はともかく、この人はそんなかわいいもんじゃねえ。 「なんで、無理だって分かんないんだろ」  ぼそっ、と小さくつぶやく純さんに、ずくずくっ、と心臓がうずいた。  冷たく歪んだ顔。一瞬、走る寒気。  まさかもまさかだ、純さんがなにもかも分かってて、平然と健司を突き放したなんて。  でもだとしたら、今思ったのと違う意味で、この人はそんなかわいいもんじゃねえ。俺にすら見えない水面下の深いところに、とんでもない物を隠し持ってたってことになる。 「ねえ凌ちゃん、メシ食おうよ」  そう言いつつ、純さんは俺のすぐ脇で、溶けかかってるようにだらーっとする。言動が矛盾してんじゃねえか。ちょっと複雑な思いで純さんの横顔を見ようとして、やめた。 「なにしてんだよ、メシ食いたいなら立ってよ」  純さんの頭を小突き、さっさと立ち上がってケータリングのある廊下に出る。 「あ、待ってよう」  追ってくる、わざと低く淀ませた声。  俺は喜んでいいんだろうか。水だと思ったらウォッカだった、みたいな、狼狽ととまどいがある。見ちゃいけないものを見てしまったような気がする。  これまでのもろもろも忘れて、ちょっとだけ健司が気の毒だ。あの健司が、片想いにときめく女みてえ、ってのは言い過ぎにしろ、純さんに対しては健司らしくなかったのは間違いない。  手に入んない方が自分のためだ。そう言い聞かせつつ、やっぱり手に入れたくなるのがヒトってもんだよな……。
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