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「ん、なに」
ほとんど生返事。まあ、いつものことだけどこのテンションの相違も面白いわけで。
「これ、かわいそうだと思わねえ? せつないよなあ」
健司はテーブルの下から、開いた雑誌をずいっと差し出した。さっきまで熱心に読んでた記事らしい。
なにげに俺も、読むのに参加してみた。やけに過敏で細かい男になってしまっている俺は、別にどうでもいいっちゃあいいんだけど、どうしてさっきからいた俺じゃなくて、純さんに振るんだろうと気になった。
純さんはさりげなく、そばに座ってる俺にも読みやすいように雑誌の向きを変え、俺の太ももにあごを乗せて、無表情に黙読。
健司が見せてきたのは見開き二ページの記事で、写真が数枚あしらわれていた。どの写真にも、メスライオンと草食動物の子供だといういたいけな存在が、一緒に写っている。
子供を亡くしたメスライオンが、その子の身代わりのように、草食動物の子供を連れ歩く。自分の子のように面倒を見る。でも、親子ごっこはたいてい長くは続かない。
「母」がちょっと餌を獲りに行った隙に、他のライオンに「子」が食べられてしまう。「母」が「子」に餌を与えてやれず餓死させてしまう。「子」を護るために「母」も絶食し、ガリガリに痩せ細った「親子」が連れだって歩く姿が見られることもあるという。
そういう親子ごっこは、サバンナではそんなに珍しくもないらしい。肉食と草食、食う食われるの関係を超えたように見えても、永遠にその一線を超えることはできない。
読み終えて俺は、小さくため息をついた。なるほど、これは確かにせつない。純さんはまだ読み終わらないのか、何度も反芻してるのか、眉を寄せて記事を見つめたままだ。遅いっちゅうの。
で、健司はといえば、テーブルに身を乗り出して、うずうずと純さんの感想を待っているように見える。
まさか、俺の想像的中か? しょっちゅうつきあう相手も変わるし、性欲に正直で、大ちゃんに恋愛話を日置健司の性愛レポート、なんて言われてる健司様だぜ?
「……俺達みたいだね」
へえっ、と喉を締めつけたやたらかん高い健司の声が楽屋に響く。さすが日置さん、ナイスかつオーバーリアクション。動きも大きい。
「お、俺達みたいってどういうことよ?」
明らかにあせりまくった揺れ放題の声で、健司が純さんに迫る。
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