SCENE3

3/11
前へ
/32ページ
次へ
「ん、なに」  ほとんど生返事。まあ、いつものことだけどこのテンションの相違も面白いわけで。 「これ、かわいそうだと思わねえ? せつないよなあ」  健司はテーブルの下から、開いた雑誌をずいっと差し出した。さっきまで熱心に読んでた記事らしい。  なにげに俺も、読むのに参加してみた。やけに過敏で細かい男になってしまっている俺は、別にどうでもいいっちゃあいいんだけど、どうしてさっきからいた俺じゃなくて、純さんに振るんだろうと気になった。  純さんはさりげなく、そばに座ってる俺にも読みやすいように雑誌の向きを変え、俺の太ももにあごを乗せて、無表情に黙読。  健司が見せてきたのは見開き二ページの記事で、写真が数枚あしらわれていた。どの写真にも、メスライオンと草食動物の子供だといういたいけな存在が、一緒に写っている。  子供を亡くしたメスライオンが、その子の身代わりのように、草食動物の子供を連れ歩く。自分の子のように面倒を見る。でも、親子ごっこはたいてい長くは続かない。  「母」がちょっと餌を獲りに行った隙に、他のライオンに「子」が食べられてしまう。「母」が「子」に餌を与えてやれず餓死させてしまう。「子」を護るために「母」も絶食し、ガリガリに痩せ細った「親子」が連れだって歩く姿が見られることもあるという。  そういう親子ごっこは、サバンナではそんなに珍しくもないらしい。肉食と草食、食う食われるの関係を超えたように見えても、永遠にその一線を超えることはできない。  読み終えて俺は、小さくため息をついた。なるほど、これは確かにせつない。純さんはまだ読み終わらないのか、何度も反芻してるのか、眉を寄せて記事を見つめたままだ。遅いっちゅうの。  で、健司はといえば、テーブルに身を乗り出して、うずうずと純さんの感想を待っているように見える。  まさか、俺の想像的中か? しょっちゅうつきあう相手も変わるし、性欲に正直で、大ちゃんに恋愛話を日置健司の性愛レポート、なんて言われてる健司様だぜ? 「……俺達みたいだね」  へえっ、と喉を締めつけたやたらかん高い健司の声が楽屋に響く。さすが日置さん、ナイスかつオーバーリアクション。動きも大きい。 「お、俺達みたいってどういうことよ?」  明らかにあせりまくった揺れ放題の声で、健司が純さんに迫る。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

38人が本棚に入れています
本棚に追加