SCENE3

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 自分は大丈夫だって思ってた。バレようがなにしようが、平気だと思ってた。だって純さんとつきあうまでの俺は、二股かけて修羅場になろうがいきなり愛想つかされようが、なんとも思わずに、すぐ次に行ける男だったんだから。 「根拠とか別にいいだろ。なあ、そうなんだろ?」  追及してくる大ちゃんの声が遠い。まるで水の中で聞いてるみたいだ。  決めつけ口調なのは、決定的な場面を見たとか、そういうことなんだろうか。もう、そんなふうに弱々しく考えることぐらいしかできない。  自分は大丈夫だって思ってた。俺は強いって、そう思ってた。だけど、ダメだった。心が倒れてマットに沈むのが、はっきり見えちまった。  たぶん俺は強いんじゃなくて、どうでもよかったんだ。今までつきあってきたヤツらのこと、大切になんか思ってなかったんだ。  こんなこと、気づくべきじゃなかったのかも知れない。純さんへの気持ちの深さを自覚したせいで、俺は苦しい思いばっかりしてる。知りたくなかった、嫌な自分を知っていく。  でもやっぱり、そんな思いを抱えて俺が帰っていくのは、純さんのところだ。バレたって言ったら、純さんはなんて言うだろう。 「お前がそんな顔するとは思わなかった。ごめんな」  静かに謝られて、うつむいてた顔を上げる。  大きくて目尻の切れ上がった、攻撃的な瞳。それが今はせつなげに細められて、澄んでもろい、クリスタルみたいな笑顔が目の前にあった。 「まさか、大ちゃん……」 「バカ、そんなんじゃねえよ。よかったな、凌太」  よかった、か。そうだ、よかった。それでもやっぱり、俺は純さんとつきあえてよかった。  たぶん俺は、すげえ幸せそうに笑ったんだろう。大ちゃんの笑顔が、優しさをまとう。 「言われてみれば、お前さ、」  次の瞬間発せられた聞き捨てならない言葉を、俺は聞き逃さなかった。 「……言われてみれば? 言われてみればって、どういうこと?」 「あ、いや、気づいてから思い返してみたら、いろいろ腑に落ちたからさ」  明らかに大ちゃんは嘘をついてる。目だけを上げて上の方を見るのが、その証拠だ。まだ俺はノックアウトされたわけじゃない、こっちも嘘を貫き通すだけだ。 「いやでも俺はまだ、つきあってるって認めたわけじゃねえし」 「そっか、分かった。なら朝までつきあえ!」 「はあ? 俺は帰るぞ?」
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