SCENE1

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 ごろりと床に転がる。やけに白くて明るい天井をぼんやり眺めてると、たちまち頭ん中はセリフで満たされて、たぷたぷ音が聞こえそうな勢いだ。  はっと気づいたら、もうツアー初日の舞台に立ってた。とにかく無我夢中で、ひたすら一生懸命やるうちに、俺達の周りの人だかりがすごいことになってた。そんな感じ。  特に俺には、そんな印象が強い。俺がなんとか大学を卒業して、他の四人より遅れて東京に出てきた時には、もう東京での活動の土台はできあがってた。東京で五人で本格的に活動しだしてからは、ホントあっという間。  九州から出てきたっていう話題性、舞台自体の面白さ、個性的なメンバー。取材でよく言われる、もはやお決まりのフレーズ。でも、そんな条件が揃った劇団はごろごろいる。  ごろごろいる中で俺達が売れたのは、事務所の社長、大久保さんの腕と、うちのスター、大ちゃんこと有村大のブレイクのおかげなのは間違いない。 「おい凌太、腕枕」  金髪頭が、有無を言わさず俺の腕を枕にする。  「またかよ、大ちゃん」 「お前の腕が一番気持ちよかもーん」  わざと嫌そうな声を出すと、大ちゃんもことさらに甘い声。  金髪がよく映える色白の肌。ファンを目で殺すと言われる、鋭い視線。隙のない端正な顔立ち。その上背も高くて手足も長いという、舞台映えする抜群のルックス。  それが有村大って男。ところがうちのスターはそれだけで終わらず、見かけによらずトークが面白い。そのギャップがウケて、まずバラエティでブレイク。まさに社長の思うツボ、だったらしい。  さらに意外なことには、大ちゃんはかなりの甘えたがりだ。こうしてメンバーの誰かに腕枕してもらっては、ご満悦で寝やがる。 「まったく、なんなんお前ら」  あきれ顔でため息をつくのは、我らがリーダー、篠原厚志。メンバー最年長の二十八歳は、メンバー最小の百五十八センチ。なんと、うちのスターとの身長差は三十センチ近い。 「いい加減、そういうのキモいからやめろって」  スマートな眼鏡を指で軽く持ち上げながら、寝転がってる俺らに冷たい視線を送るリーダー。生まれた時から眼鏡かけてたに違いない、ってほど眼鏡が似あいすぎる。末っ子おバカキャラが定着しつつある俺にしたら、それがちょっとうらやましい。
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