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リーダーの言葉にあたりを見回してみる。大ちゃんは俺の腕枕だし、健司は相変わらず大型犬の昼寝状態。ったく、いつまで純さん枕にしてやがんだよ、健司のヤツ。頭の針、全部抜いてやろうか。
「凌太くうん、髪撫でて欲しいなあ」
大ちゃんのわざとらしい猫なで声。リーダーの大げさなため息。
大ちゃんはリーダーをからかうのが大好きだ。いちいち真面目に反応するのが面白い、ってのは、俺も同感。
俺はリーダーの苦い顔を横目で見ながら、大ちゃんの髪に手をかけた。一回すっと撫で下ろすと、胸にもやもやした感覚。なんでか手が、大ちゃんの髪を拒む。
おかしい、どうしちまったんだ? よく手になじんだ感触と違うからだとしたって、妙だ。
そりゃもちろん俺の手だって、純さんの髪撫でてた方がいい。カラーとかしてない漆黒の純さんの髪は、柔らかくてつやもあって、さわり心地いいし。
俺と純さんは、もうつきあい始めて三年ぐらいになる。その頃はまだ、みんなで芝居を続けるかどうかなんて、決まってなかった。俺は大学二年生で、純さんが大学を卒業する前に告っとかなけりゃ、っていう、ありがちなタイミングだった。
あの時のことは、言葉にできないし、したくない。ずっと大事にしときたい。
実際俺は、純さんとのことは、口に出したことがない。それが、誰とは言わない話だとしても。俺の知る限り、それは純さんも同じだった。
メンバーには絶対バレたくない。だけど、一生隠し通すなんて無理だ。バレた時の俺の覚悟、それはなによりも純さんを優先する、ってこと。もちろん、そんなのは絶対純さんの前では出さねえけど。
嫌悪感に近い感情をごまかすように、あの時のことを思う。自然と純さんの方に流れていく視線。ここからは、黒のジャージを着た純さんの膝から下しか見えない。
マジヤバイ。思い出すほどに、拒否感がどんどん募ってく。適当な手の動きは、もう撫でてるとは言えないほどになる。
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