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タイチが連れてこられたのは、山の中腹にある洞穴だった。
洞穴といっても、窓まであって住みやすいようにずいぶんと整備されている。手間と時間がかかっているのがわかった。
「ハナ、さっきの酒飲んでいいだろ?」
「はいはい、あんまり飲みすぎないでよ」
ハナは慣れた手つきでクロギと呼ばれた青年に供物の酒瓶と陶器でできた器を渡した。まるで夫婦か父娘のようだ。
「おまえ、タイチというのか」
「はい……」
「タイチは私の幼馴染なんだよ」
「そうか。おまえも親を亡くしたのか」
囲炉裏の灯りに照らされたクロギの表情には哀れみの色が表れた。そこには敵意も害意もない。同じ痛みを負ったことがある者の顔だ、とタイチは思った。
「おれはクロギという。おまえたちが言うところの、鬼だ」
そうは言っても、どこからどう見ても普通の人にしか見えない。優しい顔をした青年のどこが鬼だというのだろう。
「信じられないのも無理はない。最初はみんなお前のような顔をする。
まずはおれの話を聞いてほしい。その後聞きたいことがあったらなんでも聞いていいから」
そしてクロギが穏やかに語ったのは、今までに聞いたこともない物語だった
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