鬼の正体

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もうずっと昔、タイチの祖父の祖父が生まれた時よりも昔、タイチが育った村は喜多村、美並村、丹芝村の三つに分かれていた。この三村は仲がとても悪かった。  喜多村でいい野菜が実ったと聞くと丹芝村の者が畑を荒らし、丹芝村に新しく井戸を掘ったと聞けば美並村の者がそこに犬の死骸を投げ込み、美並村に美人の嫁が来ると聞けば喜多村の者が妨害し破談に追い込んだ。  お互いにいがみ合い、些細なことで乱闘が起こることもしばしばだった。  そしてある時、この三村で同時に疫病が流行った。折が悪いことに、その年は天候に恵まれず作物の実りが悪かった。普段ならなんとかやり過ごせる程度の不作だったが、そこに疫病が重なったため体力がない者から次々と死んでいった。  しかし、美並村でだけはそうはならなかった。この疫病に効果のある薬がたまたま備蓄されていたのだ。おかげで美並村でも疫病に罹った者はいたが、死に至るほどの重篤な症状になる者はほとんどでなかった。  そこで当然、喜多村と丹芝村は美並村にその薬を分けてもらうように願い出た。しかし、美並村はそれを突っぱねた。 「その結果、丹芝村は半数くらいの人が死に、喜多村は全滅した」  なんとも凄惨な話だ。この話を知っているであろうハナは表情を消して囲炉裏の灯を見つめている。 「おれは当時の喜多村の村長の息子で、村で一番の力自慢だった。それもあって、疫病に罹ってもまだ動くことができた。その時美並村に直訴しに行ったのもおれだ。美並村で、おれは血が出るくらいに額を地面に擦り付けて薬を分けてもらうように懇願した。でも、それは叶わず、おれは追い返された」  次第にいうことを聞かなくなる体を引きずるようになんとか喜多村に帰り着いたクロギは、ほぼ死に絶えた故郷の村を目にした。そして、死の床にある父は涙を流して己の不徳を詫びるクロギを決して責めはしなかった。憎みあうことを当然のように次の世代に伝えてきたことの報いだ、とクロギの父は言い残し、息を引きとった。 「独りで残されたおれは考えた。お互いに憎みあい攻撃しあうのを止めるにはどうすればいいのかと」  そして、クロギは一つの結論に至った。  全ての村に共通の、憎むべき悪をつくればいいのだ、と。悪から身を守るために、皆で協力しあうようになればいい。
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