鬼の正体

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「おれの父は物好きで、たまに来る行商人から変わったものを買うのが好きだった。そして、その中に一冊の書があった」  そこには様々な呪いが記されていた。恋敵を痘痕顔にする方法など、眉唾なものがほとんどだったが、その中の一つが目を引いた。  それは人を鬼にする方法だった。 「本来はそうしてつくった鬼に敵を滅ぼさせる、みたいなものだったのだが、おれはそれとは違う目的で使った」  自分自身に呪いをかけ、自分を鬼にしたのだ。 「おれも疫病でだいぶ弱っていたし、その書に書いてあったことを忠実に従ったかというとそうでもないと思う。なにぶん昔のことだ、あまりはっきり覚えていない。書はすぐに燃やしてしまって手元にないから、確かめようもない。そのせいか、おれは中途半端な鬼になってしまった。人を喰いたいとも殺したいとも思わないし、おまえが聞かされてきたような角や牙が生えたりした鬼の姿もなれるが、普段はこうやって人の姿のままだ」  まだ若い青年にしか見えないクロギだが、実はすごく年寄りなのだ。普通なら嘘だと思うような話だが、クロギにはそれを信じさせる空気があった。 「鬼になったおれは度々村に降りては悪さをした。畑を荒らして、家畜を奪い、女子供を脅かしたりした。怖がられるよう、おれもずいぶん頑張ったんだ。それが功を奏したのか、丹芝村と美並村はいがみ合うことを止め、やがて一つの村になった。でも、ここで予想外のことが起き始めた」  村人たちが生贄として子供を捧げるようになってしまったのだ。 「おれとしては、村が憎みあうことがなくなればそれでよかったんだ。だから、二つの村が一つになったのは嬉しかった。これでおれの役目は終わったと思った。それなのに、今度は生贄だ。おれは村人を怖がらせることはしても、傷つけることはしなかったのに。こうなってしまったのは、鬼をやりすぎてしまったおれの責任だ」  すまなかった、とクロギはタイチに頭を下げた。 「だから、おれは生贄となったこどもを引き取って、別の町や村で生きていけるように世話をすることにしたのだ。せめてもの罪滅ぼしにな」  クロギは悪くない。心からタイチは思った。全て、村人が悪いのだ。だから、ハナも、タイチも。そして、姉ちゃんも。
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