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「おまえはいくつだ」
「十三、です」
「そうか。おまえは目端も利きそうだし、町でいい奉公先を見つけてやろう。村には帰してやれないが、それで許してくれないだろうか」
両親を亡くしてから、クロギのように頭を下げて対等に接してくれる人はいなかった。
「タイチ、今の話は本当よ。その証拠に、私も生きてるし。私の前に生贄にされたカガリは今は西楽の都の染物屋で働いているのよ」
そう言ったハナは村にいたころよりもずっと健康そうで、表情も生き生きとしている。
ハナもクロギを信用しているようだ。
タイチ自身もクロギが嘘を言っているようには見えない。
それなら、とタイチは思った。
クロギに賭けてみよう。
どっちにしろ無くしたと思った命だ、もう惜しくはない。
タイチは与えられた敷物から飛び降り、床に両手と額をついた。
「お願いします!姉ちゃんを、姉のスズを助けてください!」
予想外のことに眉根を寄せたクロギに、ハナは補足をした。
「タイチには三つ年上のお姉さんがいるの。スズさんていって、とても優しくて評判の美人なの。あんたが生贄になったのとスズさんはなにか関係があるのね」
前半はクロギに向けての説明、後半はタイチへの質問だ。
「顔を上げなさい。そのままでは話もできない」
タイチはクロギに促されるままもう一度敷物の上に座りなおした。
「なにがあったか話してみなさい」
クロギの声は村の長老よりもずっと深く澄んだ穏やかさに満ちていた。
「去年の暮れに父ちゃんが怪我をして、それが原因で死んじゃったんだ。でもおれも姉ちゃんも小さいこどもじゃないし、二人でやっていけると思った。でも、山の鬼に生贄を出さないといけないってことになって、おれか姉ちゃんのどっちかが選ばれることになったんだ」
タイチははぎゅっと両手を握りしめた。あの時の悔しさがよみがえる。
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