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ベッドを降り、がらんどうの部屋の中を改めて見渡す。なぜかロッカーだけはあるが、その他の机やごみ箱などの備品すらない。試しにドアを開けようとしてみたが、案の定、外から鍵をかけられていて開かない。窓に近寄り、レースのカーテン越しに外を見る。そこで初めて自分の居る部屋が二階以上の場所であることがわかる。建物の前には広い庭があって、あちこちに花壇が見られる。もう少しよくみようとカーテンを少し開けると、それをわかっていたかのように突然年老いた女が二人現れ、花壇に近づいた。手入れでもするのかと目を凝らしていると、二人は何か会話を交わした後、同時にこちらを見上げた。慌ててカーテンを閉める。どうやら自分は見張られているらしい。
湿気を含んだ唇を拭い、落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かす。自分がなぜここにいるのか、まずは記憶を呼び戻す必要があった。ベッドに腰掛けて、どこかに残っているであろう記憶の糸を手繰り寄せようとする。だが、ロッカーの中は空っぽであり、自分の持ち物の一切が消えていた。手がかりが何もない。焦れば焦るほど何も浮かんでこない。
その時、部屋のドアがノックされた。突然の音に驚いた美嘉ははじかれたようにベッドを飛び降りた。
「入っていいですか?」
部屋の外から先ほどの女の声が聞こえる。
「はい」
そう言わざるを得ない。すると、ドアが開き、女が白衣を着た老人の男性を伴って美嘉に近づいてくる。ベッド横に立っている美嘉を見て女が言う。
「寝ていなくて大丈夫?」
「ええ」
「じゃあ、先生、よろしくお願いします」
医者とみられる老人が前に出て、美嘉の額に手をやる。目を覗きこむ。そして脈をとった。
「今のところ問題ないようだな。とりあえず、今日一日は安静にしていてほうがいいだろう」
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