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その時、静寂を破るように、部屋の外が再び騒がしくなった。ガチャガチャという鍵を開ける音と同時にドアが開き、あの中年女を先頭に複数の男女が雪崩れ込むように入ってきた。よく見ると、女が二人、男が三人だった。美嘉を取り巻くようにして立つ。その威圧感に美嘉はたじろぐ。すると、あの女が一歩前に出て、みんなを代表するように美嘉に告げた。
「どうやらお身体も元に戻られたようですので、お家に帰りましょう」
意味がわからない。自分の家がかつてこの場所にあったということか? どこにも行きたくない。行ってはならない。自分はここで翔を待つのだ。しかし、、女はあくまで笑顔だったが、その言葉には有無を言わせぬ圧力があった。
「その前に、私は訊きたい、訊かねばならないことがいっぱいあるんです」
美嘉は不安に耐えられなくなり、ついに叩きつけるように言ってしまった。
「何をおっしゃってるんですか」
全くとりなす様子を見せない女。それでも美嘉はさらに食い下がった。
「すみません。私と一緒にいた辰巳翔という男性はどうしたんですか? そのことだけでも教えてくれませんか」
「辰巳翔? そんな人は初めからいませんよ」
「嘘、嘘よ」
美嘉は大きな声で叫んだ。すると今まで笑顔を見せていた女の瞳の底で水のように透明な炎が揺らぎ立った。静かに死の闇に下りていくような不気味さに美嘉の心は凍りつく。すると、周りにいたもう一人の女や男たちも風景に溶け込むように一斉に美嘉を睨みつける。
「何よ。いったい何なのよ」
美嘉も怯まずみんなを睨みつけながら怒鳴った。すると女が笑顔を戻して言った。
「まあ、まあ、そんなに興奮なさらないでください。家に帰ればきっと落ち着けると思いますから。さあ」
女が男たちのほうを見る。三人の男たちが、美嘉に近づく。
「お願い、こっちへ来ないで」
急に怖くなった美嘉が女を見て懇願する。
「何を怖がっているのですか。ただ、家に帰るだけですから心配しないで。さあ」
女の『さあ』という言葉が地獄へ誘うようで死ぬほど怖かった。
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