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「その服を脱がれたらよい」
とその人は言った。服というのは宇宙服のことか。酸素を供給し体温を保持する生命維持装置。それを外せと。
その人はそう言ったまま黙っていた。なので、ランクスは宇宙服を脱ぐことにした。宇宙服は自分一人では脱げない。もがいていると脇から何人かの人が現れ、介添えしてくれる。長い時間をかけて、ランクスは地球射出以来二百十日間ずっと着続けた宇宙服を脱いだ。
「その目隠しも取られたらよい」
目隠しというのはゴーグルのことか。
「ようこそいらっしゃいました」
白い人はもう一度歓迎の意を言葉で表し、口元を緩めてにっこりと微笑んだ。
「心配することはない。ここにはあなたが生存するための温度も、空気も、食料も十分にある。それから、あなたが心配している紫外線病の元となるものは、ここには無い」
白い人はゆっくりと話す。どこまでも穏やかな声。
ランクスは意を決してゴーグルを外した。眩しい光が目に侵入してくる。でも大丈夫だ。視界は閉ざされない。むしろはっきりしてくる。
ランクスはそこでようやく辺りを見た。そこは大きな部屋だった。ランクスの知識では、そこは王族の宮殿のような所に見えた。宮殿の中の、晩餐会をするような大きな部屋。幾何学模様の彫り物が施された壁の装飾にシャンデリアから光が降り注いでいる。その部屋の床の上に探査船があり、足元に今脱いだ宇宙服がある。白い人ばかりでなく、何人もの人がいる。白い体毛で覆われ、手には爪が生えている。
僕と同じだ。
僕と同じ姿形の人々。
ここは地底帝国か。
地底帝国に戻ってきてしまったのか。
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