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「欲しいか」
と、その声は言う。
「欲しいか」
「力が」
「力が欲しいか」
そうだ。
欲しい。
力が欲しい。
私は。
もう何日も食べていない。水すら与えられていない。
私は上野に戻ってきた。
上野。上野動物園。
私が地上征服作戦第三陣を阻止するために利用した場所。
私は火星探査ロケットの爆破に失敗し、檻に入れられ、上野に戻された。
上野動物園の対応はドライだった。利用できないものには金をかけない。もう私は人寄せパンダではなくなった。上野動物園の利用価値はなくなった。というより、私は犯罪者であり、上野動物園からしてみればマイナス要因に他ならなかった。しかし私を裁く法律は地上人の世界には無く、けれどもしかし殺害するのもはばかられたため、檻に入れられて上野に戻された。JAXAも警察も法律に書かれていない物事に対しては全く対応できなかった。結局、責任とその後の対応を上野動物園へ押し付けただけだ。
そして私は上野動物園へ戻され、そこで二百日以上を過ごした。種子島から運ばれてきた小さな檻の中で。汚物を垂れ流しながら。それでも最初の頃は水を与えられていた。しかし最近は水すら与えられなくなった。私は仕方なく自分の汚物を飲んで過ごした。これは餓死しろということか。上野動物園は、警察は、JAXAは、私の餓死を待っているのか。誰も殺害に手を染めず、私が自然死する瞬間を待っているのか。
水が与えらえなくなって何日が過ぎたろう。もう私は日数を数えなくなった。よく生きてるな。自分でもそう思う。自分が持って生まれた体力に感謝し、そしてそれを恨んだ。父、ドン・ドンメル元帥譲りの、地底帝国人きってのこの体力を。
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