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「通信は良好か」
火星探査船のスピーカーから日本語が聞こえてきた。
「はい。良好です」
「ランクス君、久しぶりだな」
その声は毛利衛。毛利衛館長。
「はい。ご無沙汰しています」
「元気か」
「はい。なんとか元気です」
「改めて、世界初の火星有人着陸、おめでとう」
「ありがとうございます」
「感動したよ。日の丸の旗が立った瞬間。生中継の視聴率は七十パーセントを越えた。日本中の人々が感動したんだ」
「ありがとうございます。うれしいです」
「それは私のセリフだ。ランクス君のお陰だ。五百日もその格好でよく耐えた。本当にありがとう。あと五日で探査船は地球に辿り着く。君は太平洋に着水する。そして自衛隊のおじさんたちが回収に行く。それまでもう少しの辛抱だ」
「はい」
「ところでランクス君、地球に着いたら、何か食べたいものはある?」
「そうですね。考えておきます」
「わかった。四日以内に考えてくれ。五日目に間に合うように。調達しておくから」
「わかりました。納期に間に合うように回答します」
スピーカーの向こう側が笑いに包まれる。
通信が切れた。
探査船が月の軌道上に差し掛かり、リアルタイム通信が回復した。五百日前に自分を送り出してくれた毛利衛以下JAXAの人々は、またあの時と同じように自分の帰還を歓迎してくれているようだった。
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