66人が本棚に入れています
本棚に追加
「時が来た」
その声は言った。
野太い声。
男の声。
どれだけの時間が過ぎたのかわからなかった。長い時間が過ぎた。私はその声で目覚め、薄目を開けた。檻の中。
「出よ」
その男の声は言う。
出られる訳ないじゃないか。出られないようにされている。出られないように私はこの檻に入れられている。おかしなことを言う。
私は寝ころんだまま手を顔に持って行った。顔を拭おうと思ったのだ。拭っているとゴトンと音がした。見てみると檻の鉄格子の上半分が落ちている。中央から斜めに両断されている。出れるじゃないか。そう思った。そして私は身体を起こした。久しぶりだった。屈辱的な汚物まみれの床に立ち、そして鉄格子を乗り越えた。何百日ぶりだろう。私は檻の外へ出た。
外は日が暮れようとしていた。寒かった。冬の夕暮れ。
どこに行くのだろう、と思った。私はどこに行くのだろう。まず私は、地底に戻る。地底に戻って、テツムネ老師に会いに行く。テツムネ老師。平和革命戦士団の団長。私に本当のことを教えてくれた人。私に爪技を仕込んでくれた人。そうだ。私にも戻る所があった。私は。テツムネ老師の元へ戻る。
最初のコメントを投稿しよう!